民法(債権法)改正により売主が契約不適合責任を問われずに、また買主も納得できる売買とするためには双方で取り決めされた契約書が重要となります。
不動産売買契約とは、「売りますよ」 「買いますよ」 というお互いの約束事です。民法ではこの 「売ります」 「買います」 というお互いの意思が一致した時点で売買契約が成り立つと言われています。
「売ります、買います」 による売買契約の成立によって、売主は 「売買の目的となる不動産」 を買主に引き渡す義務を負い、買主は 「売買代金」 を売主に支払う義務を負います。
別の言い方をすれば、売主は 「売買の目的となる不動産」 を買主に引き渡す代わりに、買主から 「売買代金」をもらう権利を取得し、買主は売主に 「売買代金」を支払う代わりに「売買の目的となる不動産」を引き渡してもらう権利を取得します。
そのうえでこれらの証しとし、約束ごとを書面化(※電子化も含む)したものが、不動産売買契約書となります。
口約束でも契約は成立しますが、後で 「言った、言わない」 ともめごとになったり 「やっぱりやめた」 とどちらかが言った場合には思わぬ損害をこうむることにもなりかねません。
“そのために約束ごとを書面に残す”
これこそが不動産売買契約書の意味であり基本といえるでしょう。
改正(債権法)民法による「契約不適合責任」については、この契約書がもっとも重要になって参ります。
民法の債権関係の規定については、明治29年の制定以来、実質的な見直しがほとんど行われてきませんでした。今回民法改正がなされるに至った理由としては概ね
1.「わかりやすい民法(文言)にする」
判例を十分に理解している人間でなければ民法が使えないというのは問題であり、判例法理等を明文化して、国民にとって分かりやすいものにする必要がある。
2.「条文のあり方を変える」
現在の民法の条文は俳句のように短く、また瑕疵担保責任などと一般的に使用されていない用語も多用されており、国民に理解されにくいものになっているので、条文の文言のあり方を変える必要がある。
3.「社会経済の変化への対応」
例えば、市場金利とかけ離れた法定利率により、現実の経済活動への弊害も生じている為に、全面的見直しを行う必要がある。
4.「国際的な取引ルールとの関係」
国際取引が盛んになっている現代において、諸外国の取引ルールとの整合性という点も考えて民法を作り直す必要がある。
この様なことから、約120年ぶりに改正され、令和2年(2020年)4月1日から施行されることになりました。
【旧民法】瑕疵担保責任 「法的性質=法定責任」
旧民法の考え方は、不動産は取替えのきかない「特定物」であり、隠れた瑕疵(欠陥)があっても売主が修補する余地はなく、売主は買主に物件を現況で引渡せば債務の履行を果たしたことになると考えていました。
ただ、それでは対価を支払う買主にあまりにも不公平な為、法律が債務不履行責任とは別に「瑕疵担保責任」という制度を設けて、買主に損害賠償請求と契約解除の2つの救済手段のみを与えたと説明されてきました。
しかし、不動産の売買契約を締結した当事者は当然に欠陥のない物件を想定していたはずであり、旧民法での考え方は当事者の意思や常識からかけ離れていると批判されてきました。
【改正民法】契約不適合責任 「法的性質=契約責任(債務不履行責任)」
この様なことから改正民法では、不動産のような特定物の売買契約であっても、売主は、物件を単に現況で引き渡すだけでなく、「契約の内容に適合した物件」を引き渡す契約上の債務を負うという考え方を前提に、物件に欠陥があれば売主は債務不履行責任を負うという規律に改めました。
すなわち、売買契約において、買主に引き渡された目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」であるとき、買主は、売主に対し、契約に基づく本来の債務の内容として 「1.修補などの追完請求」 や、これに代わる 「2.代金減額請求」 が可能となりました。
また、契約内容に適合しない物を引き渡しても債務の履行を果たしたことにはならないため、買主は、債務不履行の一般原則どおりに、 「3.損害賠償請求」 や 「4.契約解除」 を求めることができるとされました。
契約不適合責任とは、契約によって買主に引き渡された対象不動産が「種類、品質又は数量に関して契約の内容と適合しないもの」である場合に、買主に対し負うべき売主責任のことです。
たとえば、100個の傷のないリンゴを引き渡すとの契約であったにもかかわらず、リンゴが95個しか納品されなかった場合、又は納品されたリンゴに傷がついていたケースなどが契約不適合責任です。
同様に不動産の場合、雨漏りやシロアリによる床下の腐食等が「ない」契約で締結したにも関わらず、「ある」ものを売却した場合は売主が契約不適合責任を負います。
契約不適合責任にある種類、品質又は数量のうち、不動産売却においては主に「品質」が問題となると考えられます。
例えば中古住宅の場合の「品質」としては、屋根・天井裏の損傷等による雨漏りや水道管の老朽化による水漏れ、シロアリ等による木部の侵食、基礎及び構造物等の腐食など、また、土地についてですと、土壌汚染されている、不要な地中埋設物(産業廃棄物等)があるなどが欠陥として考えられます。
(1) 追完請求
追完請求権とは、種類や品質または数量が契約内容と異なっていれば、完全な給付請求を求めることができます。
ただし、不動産は基本的に同じものがない特定物ですので、数量を追加するという概念はありません。そのため、不動産売買における追完請求とは、具体的には修補請求が該当します。契約書に記載されていない雨漏りがあれば、修理して雨漏りがしないようにしてくださいというのが追完請求になります。
どの方法で追完(修補)請求をするのかは、原則買主が選択することができますが、売主は買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることが可能です。
また、契約不適合の責任が買主側にある場合には、買主は履行の追完を求めることができません。
(2) 代金減額請求
上記(1)の追完請求を売主側が実行しない場合、買主は契約不適合責任での次の一手として、代金減額請求をすることができます。
代金減額請求権とは、追完請求によって売主が「修補しない」選択をした場合や、物理的に不備を「修補できない」場合に、「では物件の値段を減額してください」と買主が請求できるということです。
代金減額請求ができるのは、次の場合となります。
(1) 買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をしたにもかかわらず、その期間内に履行の追完がないとき
(2) 履行の追完が不能であるとき
(3) 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき
(4) 契約の性質または当事者の意思表示により、特定の日時や一定の期間内に履行しなければ、契約した目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき
(5) 買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき
また、明らかに直せないものなど、追完の補修が不可能である場合は、催告なしで買主は直ちに代金減額請求することもできます。
これらは売却後の請求となりますので、具体的には売主から売買代金の一部を返金することになります。
なお、契約の不適合が買主の責任によるものである場合には、買主は代金減額請求をすることが出来ません。
(3) 催告解除
催告解除権とは、追完請求をしたにもかかわらず、売主がそれに応じない場合に買主が催告(相手側に対し一定行為を請求すること)して契約解除をできる権利です。
不動産の場合、売買代金が減額されても、住めない、住むために多額の費用がかかる、こうした致命的な欠陥があるケースが多くあります。そのような場合、「購入を止める」と売主側に伝えるのが催告解除です。
通常、契約後に契約を取りやめると違約金が発生しますが、この催告解除で契約解除されれば契約はそもそもなかったものとなるため、売主側から買主側に無条件で売買代金の返還が必要になります。
しかし、契約との不適合が「契約及び取引上の社会通念に照らして」軽微なときは解除できません。
※民法541条では、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間(定めた期間)を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」と定められています。
これら契約解除の要件は、代金減額請求の要件と重複します。そのため売主が追完請求に応じない場合は、買主は代金減額請求か契約解除の選択となるでしょう。
(4) 損害賠償請求
瑕疵担保責任で認められていた損害賠償請求権は、契約不適合責任でも認められています。契約に適合しない不動産を引き渡された結果、買主に損害が生じた場合は、売主に損害賠償を請求できます。
ただし、売主に帰責事由(過失)がなければ損害賠償請求できません。
つまり、契約不適合責任では、売主が故意に隠した不具合や、売主の過失で生じた損害でない限り、買主は損害賠償請求をすることができないということです。この点は、契約に適合しないことのみを要件とした、追完請求や代金減額請求とは異なりますので注意しましょう。
また、瑕疵担保責任の損害賠償請求ができる範囲は<信頼利益>に限られていましたが、契約不適合責任の損害賠償請求の範囲は<履行利益>も含まれます。
信頼利益とは、例えば登記費用などの契約締結のための準備費用が該当します。また、履行利益とは、転売利益や営業利益などが該当します。
(5) 無催告解除
無催告解除は、契約の目的が達成できない、つまり相手方の履行が期待できない、履行が不可能であると考えられる場合にできる契約解除を指します。
旧民法の瑕疵担保責任でも契約の目的が達成できないときに契約解除ができましたが、これを引き継いだのが無催告解除になります。
これは催告をすることなく、直ちに契約を解除することができるものとなります。
どのような場合に適用できるのかというと、改正民法542条で次の5つのケースが定められています。
(1) 債務の全部の履行が不能であるとき
(2) 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
(3) 債務の一部の履行が不能である場合または債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき
(4) 一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき
(5) 催告をしても契約の目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかなとき
たとえば、建築目的で土地購入の売買契約を締結したのに、法律や制限等によって建物を建てることが不可能な土地であった場合等があげられます。当然、この場合ですと、売主の力ではどうにもならないわけですから、売主に催告をしても、土地上で建築をするという契約目的を達成できる見込みはありません。
そのため、契約をした目的に達する見込みがないことが明らかであることを理由として、買主は売り主に対して無催告解除が請求できると考えられます。
4-1.契約不適合を知った時から1年以内の通知
(1) 買主が目的物のキズ(不適合)を知ったときから1年以内に通知をしなければ買主の権利は失効する(失権効)、つまり、1年以内に売主に通知をすれば、売主に対する契約不適合責任を追及する権利は保全されます。
民法改正後には、「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合(契約不適合の場合)において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない」と定められ(改正後の新民法566条本文)、キズを知ったときから1年以内に通知をすればよいものとされました。
新しいルールでは、目的物のキズについては、買主に通知の義務を負わせ、1年以内に通知をしなければ契約不適合責任を追及する権利は失われますが、1年以内に通知をしておけば、1年以内に請求までしなくても、権利は失われません。
請求については、1年経過の後でも差し支えはなく、例えば中古住宅に雨漏りがあった場合でいえば、雨漏りを知ったときから1年以内に雨漏りの事実を通知しておけば、修補請求や損害賠償請求などは、知ったときから1年後以降であっても可能です。
(2) ただし、売主が悪意・重過失である場合には、買主が通知を怠っていても失権効は生じない(権利は失われない)とされています。
もっとも、新民法566条は、上記の本文に続けて、「ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない」と定めました(同条ただし書き)。目的物のキズを知っている売主などを、通知がないという理由で免責することは相当ではないと考えられることから、失権効に例外を認めています。
すなわち、売主が悪意・重過失である場合には、買主が通知を怠っていても失権効は生じないということになります。
中古住宅に雨漏りがあったケースでは、売主が引渡しの時に雨漏りがあることについて悪意・重過失があれば、買主が雨漏りを知ったときから1年以内に通知をしなかったとしても、買主は修補や損害賠償を請求することができます。
(3) 1年以内に通知したとしても、その後売主に請求をすることなく所定の期間(5年または10年)が経過すれば、買主の権利は時効によって消滅します。
改正後の新民法では消滅時効についてもルールが改められ、 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または、権利を行使することができる時から10年間行使しないときには、債権は時効によって消滅するとされました(同法166条1項)。
●契約不適合が発覚して1年以内に売主へ通知しても、物件の引き渡しから10年間、もしくは発覚から5年間のうち期日の早いほうまでに権利を行使(訴訟提起や債務承認で時効の進行を止める)しなければ、買主の請求権は消滅。
●契約不適合が発覚しなければ、物件引き渡しから10年間で時効となり買主の請求権は消滅。
4-2.通知期間を制限する事など免責特約も有効
(1) 売主が個人の場合は「契約不適合責任を無効にする特約」の設定も可能
契約には「契約自由の原則」があり、当事者同士が同意しているならば、契約を締結するかどうかは自由であり、どのような契約内容にするのも自由という意味です。
例えば、民法91条は「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。」と規定しています。つまり「公の秩序に関しない規定(任意規定)」と異なる意思表示をした場合は、その意思が優先されるということです。
まさに契約不適合責任は「任意規定」であるため、法律で定められた事項とは異なる合意がなされた場合、そちらが優先されるという性質があります。
このことから、個人が売主の場合は、適用されるのは民法のみであり、任意で免責をつけることができるため原則条件はなく、売主と買主が合意した場合には有効となります。
例えば売主が個人であれば、「引き渡し直後から免責とする契約」や「売買後の責任を一部に限定する契約」、また「通知期間」も短期間で設定するといった事も可能ということです。
「通知期間」とは、前項(4-1)にもあったように、買主は不適合を知ったときから1年以内に売主に通知すれば追完請求等が可能とありますが、そのまま適用をすれば、売主は長期間に渡って契約不適合の責任を負うことになります。そこで、一定の期間を定めて、その期間内に買主からの通知のあった不適合のみを売主がおうというものです。
ちなみに、これらは不動産会社(宅地建物取引業者)が仲介する場合も同様となります。
実際の取引においては、物件の瑕疵を免責にしたい場合に、事前に売主が「物件状況確認書(告知書)」や「付帯設備表」を作成し、買主に提示をした上でこれら合意を得て、その内容を契約書に記載します。
売却後に買主が売主に対して契約不適合の内容を通知できる期間「通知期間」としては、3~6ヶ月程度を設けて、契約書に記載する事が一般的です。もちろん引渡し後には売主はこれら責任は一切負わないという特約条項での契約もあります。
※ただし契約上「免責」としていても、売主が故意に欠陥を隠した場合には免責特約は無効となり、買主は売主に対して損害賠償等を請求できます。
(この場合、免責特約を無効とし損害賠償等を請求する際は、故意だとわかる客観的証拠が必要となります)
また、免責の場合では、売主が免責(全部もしくは一部)にするかわりに、売買代金の値引き交渉が買主から入る事もあります。この場合では不動産会社(当社)が間に入り、お互いが歩み寄って条件をすり合わせる事が当然必要となります。
(2) 売主が宅建業者で買主が個人の場合
売主が不動産会社(宅地建物取引業者)の場合には、宅地建物取引業法40条の規制により、契約不適合責任は最低でも「引渡し後2年」以上であることが必要です。
個人が販売する時のように売却直後から免責にする内容は盛り込めませんし、免責となる期間が2年より短く設定されていた場合には、その免責特約は無効となります。
買主側からすると最低でも2年の保証期間があることになりますが、例えば、「通知期間は2年間」と定められた契約の場合ですと、2年以内に通知されたものに対してのみの保証となります。
(3) 売主が宅建業者以外の法人で買主が個人の場合
売主が不動産会社(宅地建物取引業者)以外の事業者で、かつ、買主が個人の場合には消費者契約法が適用されますので、契約不適合責任を完全に免責とする特約を付けた場合や「通知期間(売主が責任を負う期間)」を短期間にした場合は免責が無効となる場合があります。
いつまで免責できないかについては法律上の規定はありませんが、一般的には「引き渡し後1年まで免責できない」のように記載されるのが一般的です。
住宅を購入する側と住宅を供給する側が適切な取引を行えるように、住宅品確法は平成12年4月に制定されました。そしてこれらは次の3つの柱から成り立っています。
(1) 新築住宅の瑕疵担保責任に関する特例
新築住宅の取得における瑕疵担保責任に特例を設けて瑕疵担保期間を最低10年間義務づけることにより、住宅取得後の暮らしの安全を図っています。(特約で20年まで延長可)
新築住宅の取得契約(請負/売買)において、基本構造部分(柱や梁など住宅の構造耐力上主要な部分、雨水の侵入を防止する部分)について10年間の瑕疵担保責任(修補責任等)が義務づけられています。
仮に売買契約書に瑕疵担保責任を10年より短い期間の記載があったとしても、契約書の内容は無効になり、10年間は瑕疵担保責任を請求することが可能です。 請求できる内容は以下の3つです。
補修請求
損害賠償請求
解除(※売買契約の場合で修補不能な場合に限る)
また、売り主及び請負人が倒産した場合の救済措置として平成21年10月1日以降に引き渡す新築住宅について、「保険の加入」または「保証金の供託」の資力確保が義務付けられました。
(2) 住宅性能表示制度
契約する住宅性能を他の住宅と比較できるように、統一された基準で住宅の性能を表示する制度となります。(住宅を取得する人や住宅生産者、住宅販売者の任意選択)
日本住宅性能表示基準は10 分野・34事項から成り立っています。
1. 構造の安定に関すること
2. 火災時の安全に関すること
3. 劣化の軽減に関すること
4. 維持管理・更新への配慮に関すること
5. 温熱環境・エネルギー消費量に関すること
6. 空気環境に関すること
7. 光・視環境に関すること
8. 音環境に関すること
9. 高齢者等への配慮に関すること
10. 防犯に関すること
(3) 住宅専門の紛争処理体制
建設住宅性能評価書を交付された住宅にかかわるトラブルに対しては、裁判外の紛争処理体制を整備し、万一のトラブルにも紛争処理の円滑化、迅速化を図っていきます。
【関連の参考資料】
■ 住宅の品質確保の促進等に関する法律」のポイント – 国土交通省
■ 新築住宅の住宅性能表示制度ガイド (令和5年4月1日施行版)
■ 既存住宅の住宅性能表示制度ガイド (令和5年4月1日施行版)
※国土交通省ホームページより抜粋
6-1. インスペクションと瑕疵保険の検討
例えば、既存住宅の売却の場合ですと、「建物状況調査(ホームインスペクション)」があげられます。またこれに加えて「既存住宅売買(個人間)瑕疵保険」(以下、瑕疵保険)に加入する事で、
【売主側としては】
・瑕疵保険適合検査合格済み住宅をアピール
・保証付住宅として販売
・早期成約につながる
・契約不適合責任のリスクヘッジ等
【買主側としては】
・既存住宅購入の不安解消
・瑕疵保険適合検査合格済み住宅の安心
・契約内容に適合しないものによる損害のリスクヘッジ等
売主、買主、双方にとってもメリットがあります。
前項(4-2)でも説明いたしましたが、売主が宅建業者の場合は、「宅地建物取引業法」により引き渡しから2年以上の「契約不適合責任」を負わなければならないことが定められています。しかし売主が個人の場合は、「引き渡しから3ヶ月」であったり、「免責」としたりと、特約によっては内容にもバラつきがあります。
このように、既存住宅を購入するときには、不具合が見つかっても保証に不安があり、補修が発生した場合の費用負担はリスクとなり得ます。
もちろん、建物の現状把握のみであればインスペクションのみでも構いませんが、購入後に起こるかもしれないリスクへの対策もふまえて、瑕疵保険への加入も考慮に入れておくべきでしょう。
ただし、建物解体を前提とした取引では、買主にとってはインスペクションの合否は重要ではないため、インスペクションは不要です。
また、建物の劣化はほぼ無いと考えられる築浅物件の場合等判断が難しい場合は、不動産会社(当社)と相談して実施するかどうかを決めるようにしてください。
6-2. そもそもインスペクションとは何?
インスペクションとは、一般的に中古住宅の売買契約前に行う建物調査のことをいい、欧米では取引全体の70~90%の割合で行われています。
住宅におけるインスペクションでは、建物に精通した者(インスペクター)が第三者的な立場で、劣化の状況や欠陥の有無などを調べ、修繕や改修、メンテナンスをするべき箇所やそのタイミング、費用の概略などをアドバイスするものです。
インスペクションの主な対象部位は次のとおりです。(戸建て住宅の場合)
・【構造耐力上の安全性に問題のある可能性が高いもの】
基礎、小屋組、柱、壁、梁、床、床組、土台
・【雨漏り、水漏れが発生している、または発生する可能性が高いもの】
屋根、外壁、屋外に面したサッシ等、小屋組、天井、内壁
・【設備配管に日常生活上支障のある劣化等が生じているもの】
給水管、給湯管、排水管、換気ダクト
検査は原則として目視や計測を中心とした「非破壊検査」となります。
また、インスペクションを実施するのは、国土交通省が実施する「既存住宅状況調査技術者講習」を修了して登録を受けた建築士となります。
6-3. インスペクションにかかる費用相場
費用の相場は、物件の種類や検査の種類、請負業者によっても変わってきますが、一戸建ての場合ですと、検査が「目視でできる調査(基本検査)」なら、5~7万円程度となります。ただし、目視でできない調査やオプションを付加する場合は10万を超える場合もあります。
確かに費用はかかりますが、2018年4月1日以降、不動産売買契約時に私ども仲介業者が買主に対して行う物件の重要な内容説明とその書面(重要事項説明書)に、インスペクション実施の有無や、実施した場合の結果概要を記載するように義務付けられました。
そしてこれらの事項を売買契約書にも記載する事で、契約不適合責任を追及されるリスクを下げることが可能となります。
6-4. インスペクションの流れ
まず売却を依頼する不動産会社(当社)、と媒介契約を結びます。その際にインスペクションや瑕疵保険加入についてご相談下さい。
なお実施する場合には、事前に業者(インスペクター)にある程度の住宅の情報を伝える必要がありますので、可能な限りの書類を揃えて、不動産会社(当社)へお申し込み手続きを行って下さい。
【必要書類例】
(1) 図面(平面図、立面図、間取り図、断面図、配置図など)
(2) 建築確認申請書
(3) 検査済証
(4) 地盤調査書・地盤改良施工報告書(実施の場合のみ)
すべてが絶対必要な書類ではありませんが、目視、非破壊での調査を原則とするインスペクションでは、参考資料があるほど精度が高くなります。
検査実施当日の一般的な所要時間は戸建の場合は3~5時間、マンションの場合は1~2時間程度です。
立会いのもと検査を受けた場合は、その場である程度診断結果を聞くこともできます。インスペクションの実施後には、調査結果を報告書で受け取り、その内容を取引当事者の双方で確認することが重要です。そしてこれら内容は、重要事項説明書、不動産売買契約書にも記載致します。
ここまで問題が無ければ料金を支払いインスペクションは終了となります。
6-5.既存住宅売買(個人間)瑕疵保険に加入する場合
前項迄のインスペクションに合格した場合には、続けて「既存住宅売買(個人間)瑕疵保険」(以下、瑕疵保険)の加入も可能となります。
これは、引渡し後、売却した物件に瑕疵(欠陥)が見つかった場合、瑕疵保険に加入しておけば、保険機関(住宅瑕疵担保責任保険法人)が売主の代わりに補修費用を負担してくれるというものです。
ただし、瑕疵保険が適用されるのは、定められた検査基準に合格した物件のみとなりますので、インスペクションにて万一基準に満たさない箇所が見つかれば、補修して再検査に合格しなければなりませんし、この場合は当然別途費用も掛かってまいります。
(1) 対象となる住宅と保証対象部分について
瑕疵保険に加入するには、以下の2つの要件を満たすことが必要です。
1.インスペクションに合格している建物であること(1年以内のもの)
2.新耐震基準に適合した建物であること
引き渡し後に発生した保証対象部分については
・構造耐力上主要な部分
・雨水の浸入を防止する部分
※オプションにて給排水管路保証も可
(2) 保険料の相場や保証金額
瑕疵保険付保の費用は、建物規模(延床面積)、保証期間、保険金額によって異なります。
・保証期間は1年間か5年間
・保証金額は500万円または1,000万円
・保険料は4万円~10万円程度(※戸建住宅の場合)
・保険料は3万円~6万円程度(※マンションの場合)
これら費用は誰が支払うかは決まっているわけではありません。売買物件の現況や売却方法、売買条件もふまえて、売却依頼時に不動産会社(当社)と相談するようにしてください。
ここまで「インスペクション」と「瑕疵保険」についてご紹介してまいりました。これらは個人間取引(売買)においては売主も買主も義務ではありませんし、実施すれば費用も発生致します。
また、インスペクションによって瑕疵のない完全たる物件というわけではありません。ですが、売主と買主が劣化状況を承認し合う事で、売買後トラブルになりにくい事や、お互いが納得して安心に取引が出来ることにおいて有効な方法に思われます。
【関連の参考資料とリンク】
■ 建物状況調査(インスペクション) -国土交通省-
※国土交通省ホームページより抜粋
■ 住宅瑕疵担保責任保険協会
https://www.kashihoken.or.jp/
土地の売買では建物基礎や浄化槽、瓦やコンクリートガラといった残置物、古タイヤなどのゴミといった地中埋没物(産業廃棄物等)が引渡し後に出てきた場合や、過去にガソリンスタンドやクリーニング店、工場などに利用されていたことにより、薬品などで土壌汚染されたりしている可能性がある場合での契約不適合責任についてがあげられます。
もちろんこの場合でも売主が個人であれば、これら事実が不明な場合であってもその事実を知らない旨を告知した上で、免責特約によって排除することも可能ですが、地中埋設物等の調査を実施することも当然リスクヘッジとはなります。
この様なことから、ケースによっては不動産会社(当社)と相談をして、地歴調査や地中レーダー探査、ボーリング調査等の実施を考慮に入れる事も選択肢の一つと言えます。
費用相場としては、簡易検査(一般的な戸建住宅)の場合で、地歴調査で5~10万円程度、地中レーダー探査で、10~15万円程度、ボーリング調査で10万円程度になるのが一般的です。より詳細な調査の場合は当然費用も加算されますので、慎重に判断した上で実施するようにして下さい。
『契約不適合責任とは、契約によって買主に引き渡された対象不動産が「種類、品質又は数量に関して契約の内容と適合しないもの」である場合に、買主に対し負うべき売主責任』
今回の民法(債権法)改正により、売主の責任は従来に比べて重くなったといえます。
このような背景から、最近では契約不適合責任から回避する為だけに、買取業者へ売却する方も増加しているようですが、仲介で売却した場合よりもはるかに安価での売却となるのは必然です。
民法改正によって契約不適合責任というとても怖いイメージをもたれる方も少なくはあませんが、しっかりとなすべき事さえ押さえていれば、特に問題はないと言えます。
8-1. 契約内容を明確にすること
まず不動産の売却依頼をうけますと、物件状況報告書(告知書)の記載をお願いしております。
この告知書とは、売主が知っている物件の瑕疵について、買主へお知らせるための書面になります。
(既存住宅が対象物件ですと、加えて設備の現況や不具合について記載された付帯設備表の作製も必要となります。)
前述にあるように、契約不適合責任は、売主が知りながら告げなかった事実については免責することはできないことになっています。
ですので、現状知っているキズ(瑕疵)について、分かる範囲で全て列挙していきます。
そして、瑕疵があってもなくても、これら現況の内容を契約書に明記して、物件状況を定義づける事が重要となります。
なお、この告知書は契約時に署名押印のもと買主に提出致します。
(※瑕疵がある場合の内容は購入申込みまでに、不動産会社(当社)から買主にお知らせをし、内諾有無の確認をとります)
(1) 契約書には、今後瑕疵となる可能性のある事柄についても該当するものがあれば必ず記載し、どのような物件であるか容認事項として買主にしっかりと説明します。
一例として
【土地に関する事】地中埋設、土壌汚染、生活供給管の状態等
【建物に関する事】雨漏り、アスベスト使用、修繕履歴等
【近隣の環境に関する事】騒音、日照、採光、近隣の建築計画等
【継承事項に関する事】ゴミ集積場所、建築制限、隣家とのトラブル等
【心理的に関する事】事件、事故、火災、自殺等
容認事項とは、買主に現状を容認してもらうために売買契約書に記載する特記事項のことです。
(2) 免責事項や通知期間について、契約書に記載する事柄は、既に合意されている内容ともなりますので、特約条項の欄には一つ一つ漏れが無いようにかつ正確に列挙記載する事が最も重要となります。
(3) 例えば、当事者の売買における諸条件についてや、許認可承認が必須な場合等の停止条件付売買では、「このような場合はこの様にする」などほりさげて契約書に記載する事も必要です。
8-2. インスペクションや各種調査、瑕疵保険加入への検討
例えば、住居としての土地建物売買なのか、それとも建物を壊して土地使用目的での売買なのか、それぞれのケースにおいて、インスペクションや瑕疵保険、土地売り時での各種調査を検討した方が良い場合もありますので、自己判断は避けて必ず不動産会社(当社)へご相談下さい。
8-3. 契約不適合責任について詳しい不動産会社へ売却依頼する
不動産売買には土地(市街化区域や調整区域、農地等)、住宅、工場や倉庫、マンション等様々なケースが存在します。そして、これらの売却に際しては、今回の契約不適合責任にもからんでくるであろう、あらゆる分野方向での視野が必須と言えます。
例をあげれば、調整区域内での売買で許可申請が必要な場合においては、これら法律や制限等にも対応がいりますし、既存住宅売買ですと建築関係の知識が必要でしょうし、また引渡し後に買主によって建物を取り壊す場合等での、売却後にあり得るだろう状況の予測や瑕疵の想定も契約不適合責任では重要なポイントとなります。
これらに対応するには、難易度の高い取引も含めて、一定以上の経験と知識、加えて各種専門家とのネットワークがなければ無しえないと言えます。
この様なことから、経験が豊富であり契約不適合責任にも詳しく対応できる不動産会社(当社)に売却依頼する事をお勧めします。
今回はおもに個人間取引(売買)での契約不適合責任について説明してまいりましたがいかがだったでしょうか。
個人的な意見を言うならば、民法改正前よりも改正後の方がより明白でわかりやすく、しっかりとした契約が出来ると考えています。
まとめていえば、物件情報(状況)をしっかりと洗い出す作業をし、加えて当事者の諸条件や要望等を正確に契約書に残す、そしてお互いに合意のもと納得できる売買をすることです。
リベールホーム代表 杉本忠秀
不動産売却でご不安やお悩みの方は一度ご相談ください!
当社では契約不適合責任に対応した契約書作成と売主、買主がともに納得しあえる不動産売買を実施しております。